君の僕

奥へと通され、
向かい合わせで座布団に座る。

彩斗は思い切り胡坐だったけど
緊張しっぱなしの私は
完璧な正座で、背筋が真っ直ぐ。

「まるでロボットだな。」って
ゲラゲラ笑われた。


「何に致しますか?」

綺麗な黒髪を高い位置でまとめ、
ほんのりピンク色の着物を着た
日本の女性。って感じの店員さん。

「川口さんのお勧めで。」

「かしこまりました。」

彩斗の笑顔に、店員さんも笑顔になった。


「よく来るの?」

「ここの店主、俺の知り合いでさ。
たまに来てひとりで食って帰る。」

「ひとりとか、勇気あるね…。」

「ここ、予約客しか入れねぇし。
しかも予約客って1日限定3組。」

「そうなんだ。」

彩斗と関係を持つ人とか、
彩斗の好きなお店とか、
好きな場所、好きな歌。
全部全部、知る度に嬉しくなる。


「あ…そうだ。」

温かいお茶を飲んでいる時、
思い出したように呟いた。

「子供出来たら、おろすなよ?」


「ゴホッ、ゴッホ、うぐ…。」

喉まで来ていたお茶に
思いっきりむせた。

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