【短編集】時空郵便
「ねぇ、ハル君。」
呼ばれて、ふと顔をあげると麻衣ちゃんの顔がすぐ近くにあった。
そりゃあもう、き、き、ききき、キスができそうなくらい近くに。
やばい緊張しすぎてフラフラしてきた。
「ねぇハル君。決勝戦てどんな感じだった?日本の頂点てどんな気分?」
え――?
麻衣ちゃん何で
何で泣いてるの?
「あ、ゴメンね。違うの、私……」
麻衣ちゃんはこぼれ落ちた涙をぬぐい笑う。
無理やりに細めた目からまた涙が流れ落ちた。
「あのね……私、来週転校するんだ。パパが遠くに転勤になっちゃって私とママも付いていくことになったの。」
え、なに?なんだこれ。
転校?麻衣ちゃんが……?
「遠くなの?」
「うん。中国だって。なんか実感わかないんだよね、急に日本から出ていくなんて。」
もう会えなくなる?
目の前が真っ暗になりそうになるのを、皮1枚で彼女の涙が止めていた。
僕はそのキラキラを見失いたくなかった。
「来週、絶対に見送りに行くよ。」
「うん、約束だからね。」
そう言って小指で約束を交わした。
そしてそれは、僕の初恋が静かに終わりを告げた瞬間でもあった。