【短編集】時空郵便
次の日から麻衣ちゃんは引っ越しの準備をするために学校に顔を出さなくなった。
そして、それは麻衣ちゃんが日本を経つ日の二日前のことだった。
「ハルトとアヤト、ちょっと来てくれるか?」
そう言われて僕ら二人は部活後にコーチに呼び出された。
「お前たちにジュニアのナショナルチームへの召集がかかった。さっそく明後日に一回目のミーティングがあるから来てくれ。」
全日本選抜チームへの召集。
夢にまでみたその言葉に心が震える。
「え、明後日って――ハルトお前、清水が……」
アヤトの言葉に麻衣ちゃんのことを思い出した。
なぜ忘れることができたんだ?自分への怒りが込み上げる。
「ああ、清水が中国へと出発する日だったな。しかし、仕方がないだろうお前たちの将来に関わることだ。清水には明日謝っておけば大丈夫さ。」
そう言ってコーチは僕らにプリントを渡し、帰ってしまった。
「ハルトどうするんだ?」
アヤトは本気で心配して、僕を家まで送りながら話を聞いてくれた。
どうしよう。
どうすれば良いんだよ?
右の小指がズキズキと傷む。
夢をつかもうと腕を伸ばす、そのキラキラの先は――
「どーもー。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ『時空郵便』の者でーす。」
その男はこつぜんと部屋に現れた。
「何かお悩みの様ですねぇ、どうです?過去か未来のあなたに手紙でも送っちゃあみませんか?」
ひょうひょうと言って男は僕に真っ白な便箋と封筒と何だか胡散臭いペンを渡した。
「過去や未来の僕に手紙を?」
男はこくりと頷く。
「……未来の僕に手紙。未来の……そうだ。」
僕は一心不乱に手紙を書き上げると男に手渡した。
男はそれを手に取る。
「これはこれは……面白いですね。」
「……届けられるかい?」
僕の問いに男はニヤリと笑うと、音もなく消え去った。