【短編集】時空郵便
舞い上がった黄球が夏の日差しに重なってキラキラと揺れる。
僕はそれを優しく手に取ると、もう一度フワリと投げ返した。
「ハル君、ショウタ。お昼できたよ。手洗ってあがっておいで。」
「今いくよ麻衣。」
麻衣ちゃんの作ったお昼ご飯の匂いが、庭に作ったテニスコートまで漂う。
僕と、ショウタ・僕と麻衣ちゃんの息子は手を洗って家に入る。
温かい家庭はキラキラとして、夢の中にいるような気にさせてくれる。
僕の一番大事な場所――
「宛先人は存在せず。どうやらこの手紙は処分するしかないようですねぇ……しかし面白いことを考える少年でしたね。まさか宛先が――」
『プロテニスプレーヤー高田ハルト様へ。
僕は夢を追いかける為に、彼女との約束を守ることができないようです。
もしこの手紙を受け取った時に覚えていたなら、どうか教えてほしいです。
あの時の選択は間違っていなかったのかを。』
八年前のナショナルチームの第一回ミーティングの日、僕は麻衣ちゃんとの約束を棒に振り、チームへの参加を優先した。
自分で決めたことだったが、僕はそれからの日々、そのことを後悔しない日はなかった。
そんな後悔すらも吹き飛ばすほど僕はテニスに打ち込み、そしてアマチュアの日本代表として世界戦に挑むまでとなった。
そして初めて中国での大会に望んだ時だった――
「高田ハルト君ですよね。私のこと覚えていますか?」
試合会場で声をかけてくれたのは、儚げででもどこか強い眼差しを持った――
「麻衣ちゃん?清水麻衣ちゃんだよね!?」
僕は思わず彼女を抱き締めていた。