【短編集】時空郵便
居間には家族が集う掘りゴタツがある。
そのテレビ側の辺にうずくまる女性が、老人に気付き顔も見ぬままに言うのだ。
「お義父さんもう良い歳なんだから、あんまり興奮しないでくださいよ。」
あたかも面倒くさそうな物言いに老人の機嫌はますます悪くなる一方だ。
そんな時、ついつい思ってもいないことを言ったり、虚勢を張ってみたりしてしまうものらしい。
「ふん何を言うかと思えば……そんなタダキチの稼いだ金でゴロゴロとしてる人に言われたくないもんだな。」
老人の手塩に育てた自慢の息子タダキチ。
生真面目な彼はお見合いをして、今老人の目の前にいる女性と結ばれる。
バリバリのキャリアウーマンだった彼女だったが、結婚を機に専業主婦となり、昼に1人になってしまう老人の面倒を見ることになった。
しかし、老人は人付き合いが苦手で、意地っ張りで頑固者。
こうした衝突は今や日常茶飯事となっている。
嫁は見ていたテレビを主電源から切り落とすと、ドラマを見おわってから済まそうとしていた洗濯物をしに不服そうに出ていった。
「ふん……まったく。」
そう呟いて老人はさっきまで嫁が座っていた反対に座る。
そこが老人の最も好きな場所だった。
窓越しに見える柿の木。
亡くなってしまったお婆さんと結婚したその年に買った柿の苗木が、五十余年の月日を経て見事な実をつくるまでになった。
秋になり柿が実ると老人は必ず、最初に取る一番実の熟れた柿をお婆さんの仏壇に供えている。
「さて、ちと小便でもしてこようかね……」