【短編集】時空郵便
夕飯の匂いが居間にまで届く。
外はもう真っ暗で薄手のカーテン越しに見える柿の木は、どこか寂しげである。
「……うん美味しい。良い感じに出来たし、今のうちにトイレに行っておこうかしらね。」
オタマにすまし汁を一すくい、味を確認した嫁は弱火にしていた火を止める。
そしてエプロンをキッチンの椅子にかけるとトイレに向かっていった。
扉を開けて仰天。
嫌な匂いがしたと思い便器を覗き込むと、確かに用が足されていたのに流されていなかった。
「もう、お義父さんたら。」
乱暴に水を流し、ぶつぶつと文句を言いながらトイレを済ます。
そして居間へと向かい、開口一番に言い放つ。
「お義父さん!!用を足したなら、きちんと流してください。」
急にそんなことを言われたものだから老人は、トイレに行った時のことなど微塵も思い出さないままに言い切る。
「わしはちゃんと流しとる!!失礼な!!」
「今日、私はさっきの一回しかトイレに入ってないんですよ。お義父さんの他に誰だって言うんですか!!」
その時、急に電話が鳴った。
それはダイキチからの帰りが遅くなるという連絡だったのだが、2人が少しは頭を冷やすのに一枚噛んだのは間違いないだろう。
嫁が受話器を置くのを見て老人がぶっきらぼうに言う。
「わしは腹が減った、飯!!」
感謝や労りの欠片もない言い方についつい嫁の語気も強くなる。
「はい、分かりました!!」