【短編集】時空郵便
あり得ない状況。

しかし、それが実際に俺の目の前で起こっていた。

「時空手紙にはこの『時空ペン』以外の筆記用具では書くことが出来ませんし。一度書いた文字は消すことが出来ません。」

男がおもむろに取り出したペン。俺にはもうそれしか見えていなかった。

この後の男のどうでもいい話なんて、さらさら聞く気がなかった。

「いいから、早くよこしやがれ。」

俺は無理矢理に男からペンを奪い取ると、一目散に便箋に昔の自分へのメッセージを書き殴っていった。

「あー、時空郵便はお一人様一度限りしかご利用になれませんので、よーく考えて書いてくださいねぇ。書き終わったら封筒に入れて封をしたら、勝手に昔のあなたへと送られますんで。」

男が後ろで何か話していたが、俺の耳に入ってくることなどなかった。

「あーあ。ヒトの話も聞かないでまぁ。一つ大事なこと言っときます。時空手紙は必ず昔のあなたへと届きますが―

「よし。出来た。さっそく封をして…」

俺が便箋を封筒に入れ、封をした瞬間。封筒は音もなく消え去った。
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