【短編集】時空郵便
母はむき出しになってしまった枝を見ながらそう言った。
歩は勿論気付いている。
自分の病気が回復するこがないと言うこと、母の言葉に多くの優しい嘘が混じることも、全て。
「仕事が終わったらお父さんも来てくれるって言ってたわ。少し休みましょう?」
そう言って白い指が歩のおでこを撫でた。
歩は思う「お母さんの手は魔法の手で、どんな痛みも苦しみも少しの間飛んでいく」と。
陽が傾きだし、蒼白な歩の寝顔をオレンジが染めていく。
あと何回笑ってくれるのだろうか?
あと何回話ができるだろうか?
いつまでその胸が動き続けるのだろうか?
沢山の疑問が涙になってこぼれ落ちていく。
真っ白なシーツにぽつぽつとシミが咲く。
啜り泣くこの声がどうか歩にだけは聞こえませんようにと、母は声をひそめるのだった。