【短編集】時空郵便
次の日の夕方。
母は売店に飲み物を買いに病室を出ていった。
歩はまた微かに頬をゆるめる。
「"昨日のあなた"から手紙を預かっています、代読させてもらいますね」
カサッと白い便箋を広げる男。
『僕はここに居るよ』
ゆっくりと歩の鼓膜が震えた。
歩は満足そうに目を細める。
「では確かに手紙はお渡ししました。アタシはこれで」
帽子を取って深く頭を下げて男は、歩が瞬きをした間に消えていった。
その時に歩から小さな雫が零れた。
「歩?どうしたの?目が乾いちゃったのかしら」
病室に帰ってきた母が真っ白なハンカチで歩の目を拭った。
「おか、あ……さ」
「なあに歩?」
「あした……の、ぼ…く。てが、み……かい、て」
「明日の歩に手紙を?私が書けば良いのね……?」
母はバッグの中から青色の便箋とお気に入りのキャラクターのペンを取り出した。