【短編集】時空郵便
「何て書いたら良いの?」
母はペンをかまえる。
歩は切れてしまった息を僅かばかり整えてから言う。
「ぼく……は、こ……こに、いる」
母は初めて歩の前で涙を流した。
抑えることなどできなかったのだ、せき止めていた涙は次々と青い紙を染めていく。
次の日も、その次の日も母は歩の手紙を書き続けた。
そして6日が経った頃から歩は声を失った。
起きていられる時間も極端に減り、歩はぼやける視界でそれを見るのだけが楽しみになっていた。
歩が話せなくなってからも母は同じ手紙を毎日書いた。
願いを込めて、便箋は鮮やかな桜色の物に変えた。
もう鼓膜が震えることも、瞳が光を受け入れなくなってからも手紙は歩の基へと届けられた。