【短編集】時空郵便
歩が延命を始めてから、一枚の紙が壁から剥がされ、木の枝に蕾がついた頃。
「歩。今日もあなたに手紙が届いたわよ」
母はカバンから取り出した封筒を開き、ゆっくりと便箋を広げてみせる。
「『僕はここに居る』。あなたはここに居る。ここに居るのよ」
気のせいかもしれない。
しかし確かに歩の頬が動いた気がした。
ゆっくりと脈が止まる。
病室に高い機械音が響き渡り、数人のナースと主治医が病室に傾れ込んだ。
時計の針がそれを告げる。
91枚にものぼった歩の手紙は、歩の仏壇の下に大切に保管されている。
歩の生きた証。
確かに歩はここに居たのだった。
今日も時空郵便は誰かの元へ。
それはたった一枚の小さな偶然。
それを奇跡に変えるのは受け取ったあなたと
あなたを支えてくれる誰かなのかもしれない。
「どーもー。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ『時空郵便』の者でーす」
【いつまでも続く手紙】....fine.