【短編集】時空郵便
零通目:名も無き配達人
真っ赤な部屋。
途方もなく広いわけではなく、かといって1人の手には余る。
何があるわけではないが、ここが何時からだったか私の帰る場所となった。
『ピピピピピピ・・・・』
「おやおや」
私は呼び出し音を撒き散らす懐中時計に手を伸ばす。
そして赤い部屋の真ん中にぽつんと置かれた背の高い丸机の上の帽子を頭に乗せる。
「さぁて、楽しい楽しいお仕事に参りますかね」
この部屋は実に面白い。
刺激の強い真っ赤な空間は心が休まることはなく、眠ることすら許されない。
私に与えられたのはただ気が狂いそうなになるほどの自由な時間と、不自由極まりない空間。
部屋には木彫の丸机と制服をかけるために使っているウッドチェアの2つだけ。
私の意思とは関係のない場所で時間は流れ、時代は移り変わり、私は永遠に取り残された。
ゆっくりと手をかざし、鍵を回すような素振りをすると空間が歪みだして、そこを手で軽く押すと扉の様に開いていく。
差し込む光に足を入れると私は誰に見られることもなく世界に降り立つ。
「どーもー、毎度お騒がせ。安心・便利をモットーに、過去も未来もヨヨイのヨイ!
時空郵便の者でーす」
今日の依頼人はさて、私を楽しませてくれるでしょうか?