【短編集】時空郵便
見下ろした街並みは俺の存在なんておかまいなしに流れている。
今からここから男が飛び降りますよ?
人、一人が命を投げ出すんですよ?
返答はない。
ならばもういいじゃあないか。この手すりから手を離し、40センチほど先に足を伸ばす。
そのままではただ落下して足を折るだけ。
最後に勇気を振り絞るのは、ここから飛び降りることではなくて、必ず死ねるように頭から落下するよう体勢を変えること。
それだけだよ。
それだけで、オレというなんの魅力もない主人公が演じる人生なんて大それた名前の悲劇は幕を閉じるんだ。
「……ははっ。こえぇ」
見下ろしてみるとヘソの下あたりが吸い込まれていくような感覚がした。
それと同時に血の気が引く。身震いもした。
本能が警鐘を鳴らしていると言うのならさいごのさいごくらいそのスイッチはOFFにならないものかなんて考えた。
そしたら何もかもを投げ出して終わりにできるのに。
そしたら最後の我が儘で思い知らせてやることができるのに。
しっかりと手すりを握りながらオレはふと空を見上げた。
ネオンに邪魔をされてもなお、輝いていた星々を見た感想なんて決まってる。
「ちっきしょう。
綺麗だなぁ」
目を瞑った。
頭を本の数秒前の吸い込まれそうになる映像がかけめぐる。
からだ全身が警鐘を鳴らしている。
ゆっくりと。
恐らくは最後になるであろう酸素だとか二酸化炭素だとか、水素もあるのか?窒素もあるのか?そんなものを吸い込んだ。
そして足を支点にするように、オレは頭を傾けていく。
止めることなどできないように勢いをつけて頭を差し出した。