【短編集】時空郵便
お決まりの番組を見ながら朝御飯を食べて、用事があるときにはそれをするんだけれども、今日は散歩にでもいこう。
「おや、雨さんがやってくる匂いだね」
ふふふ。と笑って私は傘を持たずに家を出た。
舗装路は歩きやすいけれども散歩道には土と草がよく似合う。
だってそうでしょう?
コンクリートにはどうしたって足跡なんてついちゃあくれないもんだけど、土は草は私の足跡をなぞって凹む。
ゆっくりとポンと足を出せば、それに応えてくれるってのは、なんともありがたい話だよ。
「オオイヌノフグリの小さい花、みーつけた」
私はしゃがみこんで、その小さい青い花を指先でそっと撫でた。
まるで首をかしげたみたいでね。
ほっぺたが自然とゆるくなるのさ。
「あいたたた、よいしょ」
しゃがんだらこうなることは百も承知なのさ。
だけど、それでも良いじゃないの。
水田の水が揺れて、小さな生き物が一生懸命に泳いでる。
風がさらっと雨の匂いを連れてきたもんだから、向かいのポチは小屋の中で忌々しそうに鈍色の雲を眺めているわ。
最近では街にも出なくなってしまったし、お友だちも一人、また一人と永遠の暇に旅だって行く。
次はあたしかもね。なんて言ってどのくらいが過ぎたんだろうねえ。
「自然に生かされてる。その当たり前のなんと贅沢な事か」
幾間もなくして、土に残した足跡に斑点が浮かび出してきた。
ぽつぽつと。
ぽつぽつと。