【短編集】時空郵便
頬に当たってら手のひらに当たって、首にたまに当たったり。
雨さんが呼んでるのかもね。
雨の匂いも昔から好きだった。
初恋の相合い傘も覚えているよ。
残念ながらその時のお相手さんは旦那様ではなかったけれども。
「ふふ」
ぽつぽつと降り始めた雨。
私は来た道を引き返す。
足跡の上には水の跡がたくさんになって、さっきとは逆のわずかばかりにまだ乾いている白の斑点模様ができている。
草にしたたる雫がポンと落ちると、軽くなった葉っぱの先がピンと持ち上がる。
まるで、雨とじゃれているようだね。
「あらま」
ほんの少し前に通りすぎたのにポチは雨を見て諦めたのかもううたた寝をしていたよ。
帰ったら私も少し休もうか。
暖かいお茶を飲んで、そうそう、この間中村さんから頂いた羊羮を茶請けにしよう。
「ふふ。楽しみだねぇ、幸せだねぇ」
家につくまでに肩や頭は湿っていた。
年寄りになって嫌なことは唯一病気になりやすいことかねぇ。
風邪なんてひいちまったら大事になるかもしれないから、居間の椅子にかけてあった手拭いで頭をぬぐった。
羊羮を出して、一口に切り分ける。
包丁がすっと入って、小豆のつぶがころっと飛び出した。
それを摘まんで口にいれる。
やかんを火にかけてしばらくするととたん屋根を叩く雨の音が騒がしくなっていた。
そんなことに気をとられていると
「忘れてないかい?」なんてやかんが問答したくて蒸気を吹き出した。
急須でお茶を入れて、切り分けた羊羮と一緒に頂こうね。
「あー、美味しい」