【短編集】時空郵便
お腹がふくれてくるとどうしてか人は眠たくなってしまうもの。
もう実感のない思い出でしかないけれど、確か学生の頃も午後の学習は睡魔がやってきたような気がするよ。
たまに机で寝てしまったりするが、今日は畳の上に寝そべってみた。
雨のせいで少し湿ったような畳の匂い。
嫌いじゃあないよ。
そりゃね、お日様の光をいっぱいに吸い込んだ畳の匂いの方が好きだけれどもね。
そんなこと考えているといつのまにか目蓋は閉じて、微睡みの中に誘われていった。
まだ耳では外の世界の音が、雨粒が屋根を叩く音が、水滴がバケツを叩く音が聞こえるのに、自分の中に沈み混んでいくような、そんな感覚だ。
「寂しいけれども、安心する」
すると外の音も聞こえない。
時の一定の流れの中から切り離されて、
長い一瞬の眠りの世界だね。
「どーもー。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ!時空郵便のものでーーす」
「あら、びっくりした」
急に目の前に大分昔の郵便配達人と似たような格好をした男の子が現れたんだ。
どうだろうね、まだ30手前くらいのお兄さんじゃないかな?
「大山 しずえさん。あなたは過去か未来のあなたに手紙を出したくはないですか?
この時空手紙は必ずあなたの願った時間のあなたに届く手紙になっています。勿論、それを受け取ったその時間のあなたが受け止めてくれるという保証はございませんが」
不思議な青年だね。
そんな奇妙な物がこの世界にあるなんて思わなかったけれど、きっと嘘はついていない。
それだけは確かだと思ったんだよ。
「あなたはお一人?」
青年は少しまの抜けた様な顔をして微笑み、私の言葉に応えてくれた。
「少なくとも一人ではありませんねぇ。なんせ配達をしなければならない依頼者は沢山いますのでてんてこ舞いです」
「そうなの。忙しいのにわざわざこんなおばあちゃんの所にまで来てくれてありがとうねぇ。」
私がお礼を言うと青年は年相応の笑顔を見せていたよ。
「ですが…」
ちょっとだけ言葉につまった青年は悲しそうで、孤独の淵に座り込んでしまっているような。そんな表情だった。
「アタシは配達の遂行と共に依頼者の意識から消えてなくなる存在です。そういった意味では独りのようなものなのですかねぇ?」
最後に「ははっ」と笑って見せたけれども、それが本当の笑顔ではないことは一目瞭然さ。
「重たいものを背負ったんだねぇ。どうやら私もあなたのことを忘れてしまうようだけれども。
それでも言うよ」
私はただ嬉しかった。
孤独というのは苦しいのに、身体は諦め慣れてしまうから。
喜びがいつの間にか実感しずらくなるのと同じように、悲しみもいつしか実感は薄れ、それでも深く深く心を傷つけていくものだから。
「こんな身寄りもないおばあちゃんの所に来てくれてありがとうねぇ。
おばあちゃんの話し相手なんて退屈だろうにありがとうねぇ。ありがとうねぇ」