【短編集】時空郵便
「あらあらあら、いやだねぇ。もうこんな時間じゃないか」
掛け時計を見ると夕方の8時を過ぎていて、ずいぶんと長い居眠りをしてしまったようだ。
「あら?」
しわくちゃになってしまった頬に触れると少し湿っていた。
「夢でも見たのかしらねぇ。少し悲しくて、それでいて……そうね。
とても胸が温かい」
時の流れへと舞い戻って、私はまた奇跡のようなありきたりな「今」を歩み始めた。
面白い番組はあるかしら?
ご飯は何にしようかねぇ?
ポチはいつまで元気かね?
私の方が先かもしれないから根比べになりそうだねぇ。
あと何回、孫に会えるかね?
いつまで一人ででも暮らせるかねぇ?
土に還ると仏様になれるのかしら?
そしたらまた旦那様に会いにいかなくちゃあねぇ。
「生きていくってのは、どうしてこうも幸せなのかねぇ」
小さい頃ってのは希望に満ち溢れていて、少しでも早く未来へと進みたかったもんだ。
老い先が短くなってくると、往生際が悪くなるもんで、少しでもゆっくりと時が流れないものかとついつい思ってしまう。罰当たりなもんさ。
「今、私の願い事が叶うならば…」
満足した一瞬も後悔した一瞬も、何でもなかった一瞬も、それらすべてが人生という軌跡になっていくもんだ。
きっとそれは実感しずらいものだけれども、奇跡の様なものであって。
かけがえのないもので、幸せで。
「この大空に翼を広げ、飛んでいきたいよ…」
鼻唄を歌いながら夕飯の支度をする。
なんだか今日は久しぶりにオムライスを作ってみようと思うよ。
旦那様に初めてつくってあげた手料理。
あの時は失敗して、二人で笑いながら食べたまんだけど今じゃこんなもんさ。
美味しく作れるようになったよ。
「さぁ、一緒に食べましょうねぇ」
仏壇に小さくよそったオムライスを供えて、私は満足のいく出来となったオムライスを頬張った。
「おいしい」
おいしいと思わず笑みがこぼれるね。
笑みがこぼれると旦那様を思い出して少し胸が締め付けられるよ。