(タイム)Timeless(レス)
おっさんは額に脂汗をかき、俺から逃れようと、体をよじらせてみせた。

それでも逃れられないと知ったか、財布から万札を出して、俺に突き出す。

『どうせコレが目当てなんだろ!? 美人局(ツツモタセ)かってんだよ…ッ』

つか、逆ギレっすか。
あー、もう。
マジめんどくせー……

『いらねーんだよ、エロオヤジ。 それより、この子に言う事あんだろーが』

許してもらおうとしてるわりに、低い金額。
本当の美人局なら一万じゃ許されねーっつの。

『そんな短いスカート履いてるのは誘ってんじゃねーのかぁ!? あんたも、気持ちいいから黙ってたんだろ!?』

見苦しい、見苦しい。
こいつにも家族がいると思うと、同情するよ。

こーゆうのが死ねばいいんだよ。
葉月じゃなくて……

『あの、もういいですから。』

ずっと俯いて顔を隠してきた女子高生が、俺の顔を見上げた。

『は……ッ』

葉月!?

『痴漢が多い電車っていうのは知ってたし、スカートの丈も直してきますから……』

恐らく葉月だろうと思われる女子高生は、今にも泣きそうになりながら、自分を非難した。

違うだろ。
悪いのは葉月じゃない。

そこに付け込む、男の方で……

『あッ しまった!!』

葉月に気を取られていた俺を出し抜き、乗客の間を縫うように逃げるオヤジ。

あんの野郎ッ!!

『皆さーん、そいつ痴漢です! ほら、そこの走ってる奴!』

絶対に逃がさねーからな。







『ご協力、ありがとうございます』

ほんの数秒間で繰り広げられたオヤジの逃走劇は、沢山の乗客に押さえ付けられるという形で、幕を閉じた。

警察が駅につく頃には、自分を恥じたのか、完全に言葉を失い放心状態に陥(オチイ)っていた。

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