私の好きな人
彼は優しく微笑んで近づいてきた。
フワリと暖かい風が心に吹きわたる。
くしゃ…
その瞬間
頭を撫でられた。
人に撫でられることなんてなかった私は
黙って泣いた。
泣いてたら
もっとぐしゃぐしゃに撫でられた。
その手から伝わる暖かさは
私の心を暖めてくれる手袋みたいだった。
「……や、おいさん。」
「何ですか?」
「………臭い。」
「はははっ。困ったなぁ。」
彼は軽く笑って頭をかいた。
この人は変な人だ。
私みたいな小娘に声をかけるなんて。
私みたいな小娘の頭を撫でるなんて。
「シュウちゃん…
…家に帰らないの?」
「家、ない…。
もう、ないの…。」
「そうか…。
じゃあ、君も一緒にここで夜を過ごそう。
他愛のない話でもしながら。」
ヤオイはにかっと笑って
まるでエスコートでもするように手を出した。