私の好きな人
私はすすり泣きながらヤオイについていった。
彼が連れてきた場所は、まだ水が流れていない噴水だった。
彼はその淵に腰をおろした。
私もその隣に腰をおろす。
「はぁーっ!!」
彼は伸びをしながら近所迷惑にならない程度に叫んだ。
その瞬間に春の生暖かい風が吹いた。
なんだか気持ち良さそうで真似をしてみる。
「うーんっ!!」
―フワリ
私の汚れた心にも
春の風が吹いた。
「ねぇ。」
「何ですか…?」
「あ、敬語じゃなくていいよ。
“ヤオイさん”も“ヤオイ”でいいから。」
「……わかった。」
「じゃあお互い様で、俺も“ちゃん”付けはしないからなっ。」
にかっと笑うヤオイの笑顔と、
冗談めいた言葉が優しくて暖かくて…
私はまた泣きそうになった。
それに気付いたヤオイは
また“くしゃ”と頭を撫でた。
「はぁー。
あ、シュウ寒くない?」
「ううん。
ねぇ、“ヤオイ”って本名?」
「うーん、どうだろ?」
今度は曖昧に笑った。