お兄ちゃんは悪魔サマ
陵さんはまたも暫く沈黙を保った後、俺の近くまで寄って来て口を開いた。
ポツリ、小さめな声だった。
それはとても真剣な眼差しで……
「お前は、唯に恨まれる覚悟はあるのか…?」
「……はい」
「唯が助かって俺がいなくなっても、お前のモノにはならないかもしれないぞ?」
「そんな事、考えていません。今はただ、唯を助けたい」
陵さんはジッと俺を睨むような勢いで凝視していた。
突如フッと表情が柔らかくなった彼は、自嘲気味にこう言った。
「ハンターに手伝って貰おうとするなんて、俺も情けない悪魔だな……」
「……陵さん、今は悪魔とかハンターとか関係ありません。俺は目的の為に手を組む同志だと思っています」
「同志か……違いない。俺は今、唯の為だけに存在している。下らない体裁やプライドなんて必要ないな」
そう言って再び俺を見た陵さんの瞳には、もう迷いはないように見受けられた。
唯を助けると言う事は、陵さんは消滅する。
怖くはないのだろうか……?
ふと生まれた疑問を何となくぶつけてみた。
「自分が消える事より、唯がいない世界で自我を保ったまま存在していく事の方が怖い」
唯も陵さんもどこまでもお互いの事ばかりなんだな……
そんなに想える相手が居ることを、少し羨ましく思った。