お兄ちゃんは悪魔サマ
ふらつく体に鞭打ちながら、空から周りを見渡す。
高級住宅街であるここらは、比較的大きな一軒家が軒を連ねている。
その一角に、少し異様な雰囲気を放つ建物があった。
目を凝らして見てみると、どうやらかなり古い屋敷のようだ。周りには木々が鬱蒼と茂っており、人が住んでいる様子はないように見えた。
とりあえず行ってみるか……
再び地上に降りると、尚哉も悠哉も浮かない顔をしていた。きっとイグルス達も、唯の居場所が解らないんだろう。
「おい、移動するぞ。時間がないから急ごう」
「……陵。大丈夫なのかよ」
「……何がだ?」
「イグルスが心配してたぞ。残りのエネルギー」
イグルスのヤツ、余計な事を……
魔界では減る事のなかったエネルギーも、こちらに戻ってくれば容赦なく減っていく。
そして魔界との行き来には、実はかなりのエネルギーを消費する。
行きは問題ない。だが、帰りは別だ……
現に昨日こちらに戻ってきた途端、体が重くなった。
今の俺の状態としては、運命のその時間までギリギリって所か……
本当ならば選り好みしてる場合じゃなく、エネルギーの補給をするべきなんだと思う。
だが、もう唯以外の誰にも触れたくなかった――
最後のあの時の感触を忘れたくない。
もう2度と抱き締める事は、叶わないかもしれないから。
って運命を変えてやるくらいの勢いでいた俺は、どこに行っちまったんだか。
……でも、まだ諦めないけどな。
本当に消えるその瞬間まで粘ってやる。