お兄ちゃんは悪魔サマ
突然現れたイグルスに、驚きと戸惑いが隠せない……
病室の入口付近にいた八城のすぐ後ろに、突然スーッと現れたからだ。
だが、驚きに見開かれていたであろう俺の目は、徐々にイグルスを睨みつけるように変化する。
どんなに恩があったとしても、コイツは唯と俺を撃った。
「ずいぶんと可愛らしい姿ですね。ああ、傷が痛みますか?」
「イグルス……てめぇどういう事か説明しろ!!」
「まぁまぁ。病室で騒ぐのもなんですから、少し場所を変えましょう」
「……解った。少しだけ待ってろ」
まだ唯に伝えてない事がある。最期になるかもしれない。だからどうしてもこれだけは言っておきたい……
俺は再度唯の方を向くと、先ほどの続きを話しだした。
「唯、俺は運命に逆らう事が出来たのか、はたまたこのまま消えていくかは解らない……。神を憎みたくもなった。だけど……唯の兄貴でいられた事、一度死んだ事で解った唯への気持ち。そして、少しだけど恋人として一緒に過ごせた日々……それには感謝してるんだ。俺は唯が大好きだった。いや、こういうのを愛してるって言うんだよな。だから……だから、どうか幸せに……。例え俺の魂が消えてしまったとしても、俺の気持ちは消えない。いつまでも君の傍に……。もう一度だけ言うな、俺は誰よりも唯を愛してる……」
唯の意識は戻ってはいない。
だけど聞こえてるんだよな?
うっすら唯の目元に滲んだ涙。それは、どんな宝石よりも美しく輝いて見えた……
俺はそれを舐めとると、大きく深呼吸をした。
じゃないと、俺まで泣いてしまいそうだったから……
「イグルス、行くぞ。お前とは決着をつけなきゃいけない」