お兄ちゃんは悪魔サマ
「何かすげぇ懐かしい気がする。ここに来るのは久しぶりって訳でもないのにな……」
イグルスに連れて来られたのは、こいつの住んでいるマンション。
悪魔になってから何度もここに寝泊まりしたし、いろんな悩みを聞いて貰った部屋。
こんな風に戻ってくる事になるなんて、予想もしていなかった。
イグルスは俺を床に置くと、人型に戻る様に催促してきた。
残りのエネルギーの事を考えると、なるべくこのままが良い。
しかし、何故かそれじゃちゃんと向き合えない気がしたんだ……
もう少し……もう少しだけ持ってくれよ……
そんな風に考えながら、人型へと戻った俺。
途端に傷が疼いて、思わず座り込む。
「……そんなに痛みますか?」
「ああ、痛むよ。傷も心もな」
「そうですか。まぁすぐにそんな痛み解らなくなりますよ。あなたは此処で消滅しますから」
「それは、唯が死ぬはずだった時間になったらか?それともエネルギー切れでって事か?」
あえて3つ目の選択肢は言葉にしなかった。
それは、こんな状況になってもまだ、どこかでイグルスを信じたかったからかもしれない……
でもイグルスは、この問いに冷やかな笑みを浮かべて言いきった。
「私があなたを消滅させるんですよ。こうやって、ね」