お兄ちゃんは悪魔サマ



病室前には悠哉と尚哉が居た。
お袋は見当たらない……


まぁ、その方が良かったと思う。
こんなボロボロの俺を見たら、唯の事でいっぱいいっぱいであろうお袋を、さらに追い詰める事になりかねないからな。




「陵さんっ!!」
「陵っ!?」

「お前ら、うるさいって……」



崩れ落ちそうになる体を、悠哉が支えてくれた。




「唯の、容態は……?」

「もう峠は越したみたいです。あとは、意識が回復すれば問題ないと聞きました」

「そうか……良かった……。あのさ、唯に会いたい」



俺がそう言うと、悠哉は少し困ったような顔をして、それでも周りの様子を伺いながら病室に忍び込んでくれた。

唯の傍に近寄り、膝をついてその手を握りしめる。




「今度はちゃんとお兄ちゃんの姿だろ?でも、結局イグルスとは決着がつかないまま終わっちまった……勝ち逃げされた気分に少し似てる。悔しい……でもそれ以上に悲しかった……」




悠哉は俺から離れ、入口付近で待ってくれていた。

悠哉から俺の顔は見えない。


だから、溢れる涙を堪える事も忘れてしまっていた……


そして涙が流れるように、俺のエネルギーも体から流れ出ていくのを感じる。

体が軽くなった気がした……




「唯、俺もそろそろ時間みたいだ……。最後に唯の顔が見れて……っ!?」



俺の頬から流れ落ちた涙が、唯の手の甲を濡らしたその時、ゆっくりと唯の目が開いた……




「唯……」



唯は微笑んでいた。

満面の笑みとはいかないが、優しく包み込んでくれる様な笑顔……


俺もそんな唯を見て微笑み返した。涙でぐちゃぐちゃな顔だったけどな。










「唯……幸せに…………」










その言葉を最期に、俺の意識はどこかに呑みこまれるように消えていった……




 
< 260 / 288 >

この作品をシェア

pagetop