お兄ちゃんは悪魔サマ



家まで帰るタクシーの中、八城先生の言葉を頭の中で反芻しながら考えてみた。

それでもやっぱり思いつく事は何もなくて、私はため息を1つ零して諦めた。



玄関から2階に上がり、自分の部屋に近づく。
その時、ふと私の隣の部屋のドアが目に留まった。

私は何となく近づいて、ガチャリとドアノブを回してみる。




「なんだ。なーんもないや」



その部屋には家財道具はおろか、荷物1つない空き部屋だった。

ちょっと拍子抜けしたけど、そのまま足を踏み入れる。




「なんだろ……何もないけど、ここは好きかも」



何でそんな風に感じたのかは解らない。

でも、心がここは好きって言ってるみたいだったんだもん。




「唯ー?」

「あ、ごめん。お母さんこっち」



部屋の隅々まで見回しながら、お母さんの呼びかけに返事をする。

パタパタとスリッパの音が聞こえ、部屋の入り口にお母さんが姿を現した。




「ねぇ、お母さん。この部屋って何に使ってたんだっけ?」

「それがねぇ、お母さんも思い出せないの。使ってないならないで、荷物くらい置いてそうなんだけど……」





そっか、何もなかったのか。
ただの気のせい……かな。


部屋を出る時も何かに引かれて、つい後ろを振り返った。

でもやっぱり何もないし、何も思い出せない……



 
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