お兄ちゃんは悪魔サマ
それは、唯の記憶を取り戻させる事……
現在、唯の中では何故か俺が恋人と認識されている。陵さんが悪魔になった頃の記憶だろう。
このまま黙って傍に居て、恋人としての時間を重ねていく事は、そんなに難しい事じゃない。
記憶が戻る事で唯は辛い思いをするだろうし、俺から離れていってしまうかもしれない……
それでも、このままで良い筈がない。
陵さんや唯が自分の信念を貫こうとしたように、俺にも譲れない事がある。
ただ、どうやって記憶を取り戻させるか……だな。
ただ記憶が封印されてるだけなら可能性はあるが、完全に抹消されてしまっていたら……
いや、今は考えるのは止めよう。
やるだけやって、駄目ならまた考えればいい。
自分の部屋でベッドを背もたれにし、床に座り込んでいた。すると部屋のドアがノックされる。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
「どうぞ、入って」
ドア越しに聞こえた紗香の声に、腰を上げる。
何となく、この間の陵さんの言伝てについてだろうという予感がした。
ゆっくりと扉が開き、紗香が姿を現した。
紗香もまた、悩みながら一つの決断をしていたんだ。