お兄ちゃんは悪魔サマ
「でも、どうして俺に?」
「……尚哉さんには黙って出て行きます。じゃないと、きっと止められます」
「そうだろうな。何事にも一生懸命なヤツだから」
「こんな事を言っておきながら、止められたらそれを振り切って出て行く自信はないんですよね」
そう言って、少し困ったような笑顔を覗かせる紗香。
その表情は何だかとても寂しそうで、見ているこっちまで切ない気持ちになりそうだった。
「陵さんからの言葉は聞いたんだよな?」
「はい。言いたい事は解るんです。それでも、私にはこの選択しか出来ません……。一緒に居たら、今は良くてもきっといつか後悔します」
「……俺は賛成も反対もしない。陵さんと紗香の状況は全く異なる。誰ひとりとして、紗香の出した答えに正解か不正解かなんて言えないと思う」
「ありがとうございます。悠哉さんも唯さんの事は大変だと思いますが、頑張って下さいね」
「ああ」
最後にこれを渡してほしいと尚哉への手紙を預かって、紗香はそのまま姿を消した……
これもまた、一つの愛の形なんだろう。
涙を堪えながら手紙に目を通した尚哉は、数日後にはちゃんと前を向いていた。
十人いれば十通りの。
百人居れば百通りの愛のカタチがある。
だから、俺も自分の想いを貫く――