お兄ちゃんは悪魔サマ
アトラクションを終えて、先輩は頭が混乱したままの私を近くのカフェに連れて行ってくれた。
温かいココアを差し出され、甘いそれを一口飲むと、少しだけ落ち着いた気がした。
「先輩、さっき言ってた陵って……誰ですか?」
「それは俺の口から言う事じゃない。唯ならきっと思い出せる」
「思い出す?って事は忘れてるって事……?」
「そうみたいだな。唯は忘れてるだけだよ。君が本当に愛した人を……」
それから黙り込んでしまった私を、先輩はそっとしておいてくれた。
ゆっくりとココアを飲み終える頃には、何故か何が何でも思い出さなきゃいけないという気分になっていた。
頭では忘れていても、心は覚えていたからだと思う。
「帰ろう。唯、今日からはただの先輩と後輩だ。……別れよう」
「先輩?どうして……?」
「唯が全てを思い出して、それでも俺を必要としてくれるのなら傍に居よう。でも、今の唯に必要なのは俺との偽りの時間じゃない。辛いかもしれない、苦しいかもしれない……。でも唯なら大丈夫、頑張れ」
聞きたい事はたくさんある。突然の別れようの言葉に、少なからず動揺もしていた。
それでも、先輩はとても大切な事を伝えようとしてくれてるんだという事は解った。だから私も目を逸らさずに頷く。
家まで送ると言う先輩に、1人になりたいからと丁重に断って急いで帰った。
そして私の足は、自然とあの部屋に向かっていた……