ぼくらの事情
「……はいはいっ。わかったよ」
呆れたように響生から受け取ったままだったお茶碗持って立ち上がり、
「デザート足りなかったら咲奈ちゃんの分は抜きだからねっ」
唇を尖らせて発した言葉とは裏腹に、絆の顔にはどこか楽しそうな色が滲んでいた。
「えーっ! だったら架のデザートを無しにしようよっ」
「ヤダよ。甘いの嫌いだから響生は要らないって」
「嫌いじゃねぇよっ!」
とは言ってみたものの。
冷蔵庫には咲奈と二人ではきっと、食べきれなかったであろう量のティラミスが入っている。
キッチンに向かう背中に聞こえるいつものやり取り。
それを聞きながら小さく笑い、絆は炊飯器の蓋を開いた。
「……なぁ」
「……えっ?」
しゃもじでお釜の中のご飯をほぐしていた絆に声がかかり、ふっとそちらに目を向けると、
「どうしたの? おかわり要らないの?」
「俺のも要るからな」
「っ?」
何故か傍らに立っていた響生が、マジマジと自分を見つめながらボソリと何やら呟いている。