ぼくらの事情

その光景を見ては、


「……やっぱり響生って食い意地はってる」



咲奈の用意してくれた紅茶に口をつけながら、呆れたように絆が呟くのもやっぱり恒例。



「だからっ! おまえが作ったからだって言ってんだろっ」



そのたびにフォークを握り締め、真っ赤になって叫ぶ響生も……言うまでもなく恒例だ。



いつもなら怒るのをわかっていながら無駄にはやし立てる連中も、響生をスルーしてアップルパイに舌鼓を打っている。


響生をからかう<アップルパイ、だ。



そんな中で唯一響生を無視出来ないのが、毎回毎回目の前まで詰め寄られる絆。



わかったわかった、って宥めるいつものやりとりに加えて、


「あっ」


「っ?」



響生の唇の端に付いたパイの欠片に、やれやれって顔をした絆が何の躊躇いもなく手を伸ばし、


「もぉ……付いてるよっ」


サラッと頬を指先で撫でてしまうものだから、響生の頭の中は一気に沸点まで上昇した。



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