ぼくらの事情

「六年の演劇祭で眠り姫を絆が、王子を僕が演じたんだよ」


そう言って玲於が懐から取り出した一枚の写真。


そこに写るのは、お姫様姿の今より幼い絆と王子様姿の玲於だった。


表情が堅い絆の手を握り、爽やかに笑う玲於の顔は今と変わらない。


「わぁっ。懐かしいー」


写真を受け取り、感嘆の声を上げた絆から一瞬にして写真をもぎ取った響生に、素早く咲奈と架が顔を寄せた。


「おー……どっからどう見ても王子様とお姫様だ」


「眠り姫ってコトは……ぶっちゅっとやっちゃったワケか」


中心に居る響生より顔を突き出し、写真を覗き込んだ二人の後頭部に、


「小学校の劇でそこまでやるワケねぇだろっ!」


漸く口を開いたかと思えば、思いっきり叫ぶ響生。



急に写真をもぎ取ったかと思えば、叫びだした響生を前に、



「あの事故チューがファーストキスじゃない疑惑浮上で苛立ってるよ響生……」


「キスの一個や二個で女々しいな響生は。どうせ絆嬢は澪路さんに色々されて……」


「だから聞こえてるってば。それ」


目の前で全然コソコソしてないコソコソ話をする幼なじみたちに、律儀に呆れ顔の絆がツッコミを入れた。
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