ぼくらの事情
保健室に一人取り残された絆は、響生の出て行った扉をぼんやりと見つめていた。
自分にたった一言。
……もういい。
そう言い放った響生の横顔が頭を離れない。
言い知れない不安感に立ち尽くしたまま動けなくなっている絆の元に、
「あれ? 絆一人?」
いつもと変わらない笑顔を浮かべ、二人分のカバンを持った玲於が現れた。
「他のみんなは? 先に咲奈が架と響生のカバンを持って行ったんだけど」
保健室の中を見渡す玲於からカバンを受け取り、
「……響生なら少し前に起きて帰ったよ」
さっきまでの不安を打ち消すように、絆はいつものように笑って見せる。
「あっ、響生気が付いたんだね。良かった」
空っぽになったベッドに目をやる絆はどこか上の空で、
「絆、何かあった?」
細い肩にそっと手を置いたところで漸くその瞳に自分が映った。
「……玲於」
微かに揺れた瞳に優しく微笑んだ玲於は、そのまま絆の手を握り締める。
「ううん。何もないよ」
出来るだけ自然な笑顔を浮かべた絆は、こう言って玲於の手からそっと自分の手を解くのだった。