ぼくらの事情
「絆?」
「えっ?」
「どうかした?」
六限目のホームルーム。
机を寄せ、教室の真ん中にポッカリ出来た空間でぼんやりと立ち尽くした絆に声がかかる。
「次、美園沢さんのセリフだよっ」
転入生であることなど全く感じさせない程に馴染んだ玲於を始め、クラスメートの半分がお揃いの冊子を片手に絆を取り囲んでいる。
「ごめん、ぼーっとして」
「大丈夫大丈夫、文化祭まではまだ三週間あるしね」
慌てて絆が捲った冊子の表紙に、『眠り姫』の文字。
三週間後に控えた文化祭で演じる劇の台本だ。
「それに、美園沢さんには無理言ってお願いしちゃったしさ」
絆たちのクラスの出し物は、『眠り姫』の劇と喫茶店。
この劇を仕切るクラス委員が言うように、料理好きの絆が喫茶店に立候補したのを、
「ストップストップ! 今年は美園沢さんと玲於くんの美男美女を売りにした劇で集客するんだからっ!」
なんて言うムチャクチャな理由で却下した挙げ句、無理言ってお願いされちゃった絆が仕方無く頷いたことで今に至るのだ。