ぼくらの事情
架が何を言おうとしているのかがサッパリわからない。
架を見つめる表情は堅く強張り、空いていた手のひらは不安を打ち消すように握り締められていた。
「絆嬢。響生がキミに言った好きは伝わってないの?」
「えっ?」
「キミが澪路さんを好きでも響生は諦めなかったよ。失恋したキミの傍に居たし、キミの手作りならって苦手な甘いモノも食べた。必死にね」
いつの間にか架の顔からは胡散臭い笑顔が消えていた。
表情を作らず淡々と発していく言葉は、架をずっと見つめていた絆の胸にどんどんと積み重なっていく。
「なのに、玲於にアッサリ横取りされちゃうんだから響生としてはやってらんないよね~。もういいって言いたくもなるよ」
ケラケラと笑ってみせる架の声はいつも通りなのに、絆を見下ろす瞳はずっと冷たかった。
握り締めていた手が震える。
架の言葉でやっと自覚した。
……自分がずっと響生の気持ちを軽視してたこと。
誰かが傍に居てくれる心地良さに甘えて、響生の言葉を受け流していた自分に言い知れぬ怒りが湧き上がってきた。