ぼくらの事情

悔しげに唇を噛み、架と自分の立つ間の廊下を睨み付けた。


絆の円い二重には、じわっと涙が込み上げている。


「……はぁ。ヤな役回りだな、俺」


涙を落とすまいと必死に堪える絆の頭に、軽く指先が触れる感触。


上目に動かした視線の先には、苦笑いで溜め息を漏らす架が映った。



初めて見る架の表情。
それに目を奪われている絆に手を伸ばし、架は優しい手つきで頭を撫でた。


「咲奈ー、出番。絆嬢にフォローを入れるんでしょ」


頭に触れていた手のひらが肩を掴み、そのまま勢い良く絆の体は架の方へと引き寄せられる。



いきなりの展開に、ただ呆然と架に肩を抱かれていた絆の視界には、


「架っ! アンタはここちゃんに触っちゃダメ!」


生徒会室の観音開きの扉から飛び出してきた咲奈が、こちらに駆け寄ってくる姿。


「せっかく憎まれ役買って出たんだから、これくらい良いじゃん」


口を目一杯開いて怒る咲奈を後目に、呆然としたままの絆を架はさらに抱き寄せる。


「そういう問題じゃないでしょっ!」


目くじらを立てて架を叱りつける咲奈が絆の手を取り奪取した。
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