ぼくらの事情
生徒会室から走って来た響生の目に、理事長室の前で話す絆と理事長の姿が飛び込んで来た。
ちょうど劇の練習をしていたのか、絆の手には使い込まれた台本が握られている。
手前の廊下で立ち止まって息を整え、二人の元に歩み寄ろうとした途端、
「っ!?」
理事長が告げた言葉で、絆の手から台本が滑り落ちてしまった。
理事長を見つめる絆の顔色はみるみるうちに血の気が引き、
「……響生」
ただならぬ雰囲気に慌てて駆け寄った響生を、台本を拾い上げた理事長が険しい表情で見た。
「何がっ」
「澪路からの連絡で雅さん……絆ちゃんの母親が倒れて病院に運ばれたって。すぐ車を取ってくるから」
理事長は淡々とこう告げ、すれ違い様に響生の肩を叩いて廊下の向こうに消えていった。
視線を正面に向ければ、さっき台本を落とした時と変わらないままの絆が立ち尽くしている。
「…………」
ゆっくりと歩み寄った響生を見上げた顔は真っ白く、小さく震える指先は冷たかった。
それを手のひらで包み込んだ響生は、
「響生……」
何も言わずただひたすら病院に着くまで、こうして絆の手を握り締めていた。