ぼくらの事情
「まさか雅さん……この間飲みに行ったときの?」
「えっ!?」
丁度、美園沢家で絆たちがお泊まり会をしていた日。
澪路が一人で仕事から戻ってきたのが、そもそもの始まり。
「……酒の上とはいえ、とんでもない過ちだわ」
「雅さんっ!?」
雅と飲みに行ったって相手が、他でもない幼なじみの腐れ縁である理事長。
お互い愛する伴侶を亡くした身だ。
酒の勢いに煽られて出て来るのは、幸せだった日々の思い出と忘れ形見の子どもたちの話ばかり。
そして、
「ちょっと魔が差したのよ」
まぁ、お互いの寂しさで済し崩し的に……の結果が今。
口をポカンと開け、唖然とする子どもたちを余所に、
「雅さんっ!」
渋い表情を浮かべた雅の手を取った理事長は、
「雅さんにとっては過ちでも、僕は本気だよっ!」
求愛を始めてしまう始末。
みるみるうちに険しくなっていく息子たちの表情に反して、
「わぁ……」
一人網膜に恋する乙女フィルターがかけられた絆は、何故かうっとりとした眼差しでオッサンの求愛を眺めていた。