ぼくらの事情
「でもさ、良かったよね。これでここちゃんも響生も一緒に居られるし」
玄関の内側からガヤガヤと聞こえてくる声に目を細め、咲奈は隣の架を見上げた。
玄関から飛び出してきた響生と絆に、
「気をつけて行っておいで、絆」
「うんっ。澪ちゃんもお仕事頑張ってね」
何故か絆限定で見送る澪路は、優しい手つきで頭を撫でた。
「いちいち触んな!」
そんな新婚さんオーラ全開の二人が不快で、響生は無理矢理に澪路から絆をひっぺがした。
「……どうだろ。いくら傍に居ても手も足も出せないってのは」
「蛇の生殺しだね。哀れ響生」
気が付けば、玄関でのやりとりを傍観していた人影は増え、その内二つは響生に哀れみの視線を送っている。
「わかったわかった。響生も気を付けてな」
絆とは打って変わって、あしらうように響生に言い放った澪路はそそくさと玄関の扉を閉めてしまった。
それが更に更に響生の機嫌を損ねてしまうワケで。
「お前が澪路に甘い顔するからだっ!」
「だから、これがいつも通りだってば」