ぼくらの事情
「聞かなくて結構ですっ!」
こんなにも一日に何度も携帯を吹っ飛ばしたい気持ちになるのは、きっと後にも先にも今日だけだろう……。
響生から取り上げた携帯に一言吐き捨て、絆は力一杯電源ボタンを押した。
「何してんだよっ、アホ女!」
「それはこっちのセリフですっ!」
「……そりゃそうだな」
勝手に携帯を切られた響生の怒りより、勝手に家にあがってこられた絆の怒りの方が遥かに上だろう……。
一人納得してみせるけど、架だってここに居るんだから例外じゃない。
「わかってるなら鍵置いて出てって」
「それは出来ないよ、絆嬢」
爽やかな笑顔で否定された絆の架への不信感は、更に深まるばかり。
「そうだよー。咲奈たち、ここちゃんと仲良しになりたくて来たんだからっ」
「……なんで?」
「そりゃあ理事長に……」
「り、理事長に頼まれてるからねっ!」
理事長に退学にするってに脅されてるから。
なんて正直に答えるのは、バカのすることだ。
大きな声ととっさの作り笑顔で誤魔化す架を、訝しそうに絆が見つめていた。