ぼくらの事情

咲奈に突き飛ばされてバランスを崩した響生を避けようとした絆に、


同じように避けようとした響生のタイミングが重なり、


「っ!!」


とっさに左手だけはついたけど、支えきれるワケもなく、


「んっ!」



キュッと閉じた瞳を開いた時には、真ん前に目を見開いた絆のアップがあった。


それと同時に、唇と右手にはめちゃくちゃ柔らかい感触が広がる。



なんだこれ……?


なんて考えた数秒後。


「イャーーーッ!!」


つんざくような叫び声が真下から聞こえ、


「うぐっ!」


無防備だった鳩尾に鈍い痛みが走った。



状況が掴めないまま四つん這いから胡座になって鳩尾をさする響生の前には、


「…………」


白い肌を真っ赤に紅潮させた絆が、口元と胸元をギュッと押さえ、瞳に涙を浮かべた光景……。



ズレた眼鏡越しの視線が重なった瞬間、


「っ……」


「あっ! ここちゃん!」


ポロッと一粒の涙を零し、絆はそのままリビングから駆け出して行ってしまった。


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