ぼくらの事情
慌てて追いかける咲奈をぼんやりと目で追う響生の前に、
「切れてんぞ……唇」
静かに差し出されたティッシュに、ゆっくりと自分の唇を確認してみる。
人差し指の先についた血は、気付けばじんわりと口の中で広がっていた。
「まさか……」
「…………」
「俺の唇とアイツの唇が当たったのかっ!」
「みたいだな」
「っ!!」
ここでやっと気付いた事実に響生の頬はカッと赤くなり、反射的に手のひらで口を覆う。
「……俺としたことがっ」
さっきの事故チューに酷く狼狽え始めた響生は、今度は両手で頭を抱え始める。
何だって軽くこなしてきた優等生な幼なじみが初めて見せる表情を、
「…………」
面白そうなので架はしばらく観察してみることにする。
頭を抱えていた手を今度はじっと見つめ、
「じゃあ、あの感触は……」
ボソボソと呟いたかと思えば、
「……やってしまった」
また頭を抱え出す。
そしてまた右手を見つめ、頭を抱える……を繰り返し続ける響生に、
「胸触ったのか」
「っっ!!」
架の一言が追い討ちをかけた。