ぼくらの事情
女心のおの字も知らない響生は、自分が思ったよりずっと女自体を知らないらしい。
まぁ……生粋の坊ちゃまだから仕方ないか。
今まで何度も使ってきたこの言葉に納得し、ウブでバカな幼なじみに助け舟の一つでも出そうと声を掛ければ、
「響生ー、こういう時は……」
「やっぱり責任取って嫁に貰うしかないかっ!」
「…………はっ?」
何やら深く決意したような真っ直ぐな瞳で声を上げた響生に、開いた口が塞がらない。
「なんで嫁?」
「不本意だけど仕方ないな。……母さんも言ってたし」
亡くなった母親に何を教わったのか……。
潔く腹を据えたその顔は、清々しいほどに引き締まっていて、
「婚姻届を取りに行かせるか」
「おまえはまだ十七歳だよ、落ち着けバカ響生」
すかさず制服のポケットから取り出した携帯を耳に当てた響生を、見かねた架は思いっ切り叩いて止めた。
「いいか響生。例えこういうことになっても焦ったりするな。嫁なんて言われたら絆嬢の方がビビるから」
このご時世、この程度のことで責任を取ってたら身が保たない。