ぼくらの事情
「咲奈」
「なぁに?」
「……どうやったら許して貰えんだ?」
ぼそりと呟いた響生の殊勝な言葉に、咲奈はマスカラでバサバサの目を見張ってしまう。
苦節十数年。
生粋の坊ちゃま育ちで、傲慢で他人の気持ちや思いやりに疎いことで幾度と悩まされてきた響生が今……高二にしてようやく一皮剥けようとしているではないか。
「……今日はお赤飯ね」
「はぁ? 赤飯?」
感涙で潤んだまなじりを軽く押さえる咲奈を響生は怪訝そうに見下ろす。
そんなやり取りを斜め前から観察していた架はにっこり笑い、
「赤飯はまだだよ」
「まだ?」
「そうそう。赤飯は響生が脱童て……」
「わーーっ!!」
またしても、とんでもないアドバイスを伝授しようとするから気が気じゃない。
さっきまで感涙してたかと思えば、今度は大きな声で奇声を上げ始めた咲奈を、
「おまえ……どっか悪いのか?」
響生が心底心配そうな顔でまじまじと見つめている。
「響生よりマシだよ」
「俺はまともだ」
ケラケラと笑う諸悪の根源は、響生の言葉がウケたらしく笑いが止まらない。