ぼくらの事情
不意に近付いた距離でまたしても思い出す昨日の事故。
いい加減、自分でもしつこいと頭を振った。
「あっ」
その間、ふっと体を屈めた絆とまた距離が近付き、
「わっ!」
驚きで体を逸らした響生は足を一歩後ろに後退させ、絆から間合いを取った。
目を見開いて絆を見つめる響生に、
「制服のボタン。取れてるよ」
パッと開いた手のひらを差し出した。
見れば制服の丁度真ん中のボタンがなくなっている。
「脱いで。付けたげる」
「なっ」
ポケットから可愛らしいソーイングセットを探り出し、
「一分で片付くから貸して」
響生に制服を脱ぐように促してくる。
思いがけず優しい言葉を掛けられてしまった響生は、
「い、いいっ。……いらんっ」
架の想定通り、しどろもどろしながら目を泳がせている。
「…………もぅ」
頑として制服を渡そうとしない響生に痺れを切らし、
「なっ!」
「動いたら刺さるよ」
針と糸を取り出した絆が前かがみになり、響生の制服へと手を伸ばした。