ぼくらの事情

不意に近付いた距離でまたしても思い出す昨日の事故。


いい加減、自分でもしつこいと頭を振った。


「あっ」


その間、ふっと体を屈めた絆とまた距離が近付き、


「わっ!」


驚きで体を逸らした響生は足を一歩後ろに後退させ、絆から間合いを取った。



目を見開いて絆を見つめる響生に、


「制服のボタン。取れてるよ」


パッと開いた手のひらを差し出した。



見れば制服の丁度真ん中のボタンがなくなっている。


「脱いで。付けたげる」


「なっ」


ポケットから可愛らしいソーイングセットを探り出し、


「一分で片付くから貸して」


響生に制服を脱ぐように促してくる。



思いがけず優しい言葉を掛けられてしまった響生は、


「い、いいっ。……いらんっ」


架の想定通り、しどろもどろしながら目を泳がせている。


「…………もぅ」


頑として制服を渡そうとしない響生に痺れを切らし、


「なっ!」

「動いたら刺さるよ」


針と糸を取り出した絆が前かがみになり、響生の制服へと手を伸ばした。
< 49 / 191 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop