ぼくらの事情
制服の内側に手を入れた絆の指の感触が時折、シャツ越しに伝わる。
前かがみになった絆の伏せられた瞳から伸びる睫は長く、
「生徒会長サマなんだから身なりはちゃんとしとかなきゃ」
サラサラと肩に掛かった髪からはふわっと優しい香りが漂い、鼻をくすぐった。
それと同時に響生の頬はみるみるうちに赤くなり、
「はいっ。出来た」
顔を上げた絆の微笑みを見た瞬間、
「っ!!」
響生の心臓のリズムは、ぶっ壊れてしまいそうに高鳴り始めた。
「ち……」
「えっ?」
絆を見てるだけで呼吸が乱れ、頭の中までおかしくなる。
突然襲った体の変調に動揺しきった響生は、
「近寄るなっ! 俺に触るなっ!」
真っ赤な顔で吐き捨てるなり、屋上から逃げるように飛び出していってしまった。
その一部始終をストップウォッチ片手に、扉の隙間から生暖かく見守っていた幼なじみたち。
「……響生」
誠心誠意謝るどころか、逆ギレで最悪の印象を残しただけの響生に呆れたように溜め息をついている咲奈の隣で、
「さすが響生。予想以上に楽しいコトしてくれるよね」
架だけが心底楽しげに笑っていた。