ぼくらの事情
「あんなアホ女が好きなワケねぇだろっ。気安く触ってんじゃねぇってんだよっ、身の程知らずがっ」
負けじと精一杯強がって吐き出したセリフは、
「あっ、絆嬢」
生徒会室の前をたまたま通りかかった絆の耳に、バッチリと入ってしまったから大変。
絆に気付いて振ろうとしていた咲奈の手は固まり、
「せっかく和解しようと思ってたのに……」
昨日の事故をお互い水に流そうと、提案しようとしていた屋上では何故か逃げられた上、今も通りがかりに思いっ切り暴言を吐かれた。
ムッとして唇を尖らせた後、
「……ひどい」
ふっと瞳を伏せ、悲しそうに俯いた絆はそのままスタスタと廊下を横切って行ってしまった。
「あっ、ここちゃん!」
弁解するでも否定するでもなく、響生はただ泳いだ視線で絆の背中を見つめるばかり。
「あーあー。響生が認めないからまた誤解しちゃったじゃん。バカ響生」
「うるせぇなっ! 俺はバカじゃないっ」
「言ってる場合じゃないでしょっ! ここちゃんに謝らなきゃ」
心底呆れたような憎たらしい顔で溜め息を付いた架と、ムキになって言い返す響生に咲奈がストップをかけた。