ぼくらの事情

「絶対違うよっ! その人わたしと顔合わせたらすぐにそっぽ向くし、貶してくるし」


必死に否定すればする程、雅と澪路の予感は確信に変わっていく。


「ぅーっ。もうイイよっ」


黙ってニヤける二人に、拗ねた絆はそのまま口を噤んだ。



「ちょっとガキっぽいけど、見る目は確かみたいね。その子」



サラッと我が子自慢する雅に、澪路がまた同意したように笑う。


「確かに。絆は純粋な良い子ですからね」


思いがけず二人から褒められ、なんだか恥ずかしいようなくすぐったいような感覚が全身に巡る。



顔を真っ赤にして俯いた絆は、ひたすら膝の上のカバンを見つめた。


「着いたよ、絆」



しばらくそうしているうちに、窓の外の風景は見慣れた家の前に変わっていた。


ゆっくり停止した車のドアに手を掛け、アスファルトの道路に足をつく。


また、ここで自分だけ一人になる。


名残惜しそうに一度だけ後ろを振り返れば、


「良かったわ……絆が学校で楽しく過ごしてるみたいで」


優しく笑いかける雅の顔が飛び込んできた。


……やっぱりズルい。
こんな時ばっかり母親の顔は。
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