ぼくらの事情
「お呼びでしょうか、理事長」
理事長室の仰々しい扉を叩き、一人の男子生徒が一礼をしてその中へと入ってきた。
入り口の真正面に構えられた立派な机と椅子に腰をおろした男性が軽く手招きをする。
それに合わせて歩み寄った彼は、じっと眼鏡の奥の瞳を理事長に向けていた。
「呼び出して悪かったね、生徒会長」
「いえ」
「ひとまず、この間のテスト学年一位おめでとう」
「ありがとうございます」
淡々とした口調で理事長に言葉を返していく彼は、やっぱり変わらない顔で理事長を見つめていた。
テストの順位なんてどうだってイイ。
さっさと本題にはいれよ。
いくら瞳に訴えかけてみても、理事長は手元の書類をいじりながら、
「さすが加治原くんだね」
なんて気楽に笑っているだけ。
たまりかねた生徒会長が、思い切って口を開こうとしたその時だった。
「はい、これ」
「はぁ」
手元でいじっていた書類がさっと差し出され、反射的に受け取ってしまう。