ぼくらの事情
「明日の夜までには戻るよ」
運転席から振り向いた澪路の言葉に小さく頷き、絆は二人を乗せた車を見送った。
空っぽの家の鍵を開け、薄暗い玄関を見渡してみる。
明日の夜までまた、自分はこの空間で一人で過ごすんだ……。
無意識に零れた溜め息にうんざりして、静まり返ったリビングのソファーに座り込む。
今までずっと独りで過ごしてきたはずの時間がやたらに寂しく感じるのは、ここ二日間に色々あり過ぎたせいか……。
ふっと見下ろした瞳に、自分の制服の裾が飛び込んだ。
学生生活にしか得られないモノもある。
雅から言われた言葉が頭の中に蘇って、同時に今までの学校生活を思い出した。
寮の中で過ごした小学校の六年間。
消極的な自分に手を差し伸べてくれた優しい男の子に、ロクな別れも告げられず雅の元に戻った後悔を残して幕を閉じた。
そして、中学時代。
一緒に暮らせることに喜んでる暇なんてないくらい雅は忙しい人で、淡い期待はどんどんと萎んでいった。
その代わり、絆の傍に居たのが雅が連れて来た澪路だった。